スパイス

◆スパイスの語源

語源はSPECIES(ラテン語の品種)からきている。東洋の熱帯地の植物の各部分から採れる乾燥芳香植物。
スパイスは、気候風土の条件が限定された場所でしか収穫できないため、人的に栽培するのは困難だった。故に、かつてヨーロッパ諸国は、他所から調達せねばならず、中近東や東南アジアから危険な航海をし運んで来た。そのため、金と同等の価値があるものであった。
故に、スパイスを巡る争いや貿易の発達、新大陸 発見などの世界の歴史にも多大な影響を与えた。

◆スパイスの歴史

メソポタミア文明発祥の地、チグリス・ユーフラテス河口で発見された5千年前の古代楔形文字(せっけいもじ)で、ゴマが使われた形跡があると解った。古代エジプトでは様々な交流から、インドや東洋のシナモン、カッシャなどが入ってきたらしい。特に、防腐作用の強いシナモン、クローブ、アニスは、ミイラ作りに不可欠だった。
古代ギリシャ、ローマ時代はアレキサンダー大王の遠征により、アジア、アフリカ、ヨーロッパの三大陸の貿易の中心地としてアレキサンダー港が作られ、ペッ パー、カッシャ、シナモン、ジンジャー、クローブなどの入手が可能となった。
7世紀頃までは、ローマがスパイス貿易を独占していた。インドネシア、モルッ カからインド、アラビア、紅海、エジプトを経て約2年間かけてローマへたどり着いたとされる。
その後アラビア人がスパイスを独占。千一夜物語のシンドバッドなどに出てくるお話には、怖い思いをし、人のいない所へ行かなくては、スパイスは手に入らな い、というイメージを植えつける意味があったと思われる。
十字軍の頃のベニス、ジェノバの商人達は、パレスチナの海岸に貿易センターを作り、宝石、織物、 スパイス等を運び、富みを得た。シェークスピアの物語にも、ベニスの商人がスパイス貿易をしたとある(メディチ家の財産はスパイスと麻薬?紋章にクロー ブ)。
マルコポーロの「東方見聞録」の影響を受けて、ヨー ロッパ人達が海路で東南アジアに行けるかもしれないという夢を描きだした。それというのもスパイスの値段が、金、銀に匹敵する程高価だった為である。コロ ンブスは、世界は球状で西へ行けばインドにも出られると信じ、航海の末1492年にサンサルバドルを発見した。
イ ギリスのヘンリー7世の援助を受けて、ジョン・ガボットが航海に出てセントローレンス川他を発見した。バスコ・ダ・ガマはケープタウン回りでインドに到着。マゼラン(ポルトガル人)は、西からモルッカ諸島(スパイスアイランド)に行こうとしたが、志し半ばのままフィリピンのセブ島の隣島マクタン島で殺さ れ、生き残った部下のみ帰国した。5隻で船出したが1隻だけ残り、18人しか生き残っていなかったという悲惨な結果であった。しかし、持ち帰ったスパイスのお蔭で、十分に費用を賄えたと記録されている。その後はスペインとポルトガルがスパイスをめぐる戦いを続け、地元の人を苦しめ続けたらしい。
やがてオランダが出てきて、東インド会社を設立。各植民地で残酷なことをしたとある。18世紀には、イギリスが東インド会社を引き継ぐ形になり、第一次世界大戦まで独占。その後はアメリカが独占することとなる。
日本におけるスパイスの歴史は、古く「古事記」には「はじかみ」つまり生姜が出てくる。鑑真和上のもたらしたものもあったようだ。明治頃までは、漢方薬とし て利用されていた。シナモンを肉桂と呼び、漢字で全て著わしていた。スパイスは歴史を左右するほどのものであった。人間にとって強い欲望を持たせるもの だったようだ。

※ロジャー・ルクイエ作(スパイスへの並々ならぬ傾倒ぶりが表現されている)
「愛するスパイスのひきだしよ、どんなにお前をあけたいことか、はるかな東洋からの自由の息吹、果てしのない旅、魔法に包まれたコロンボ、セイロン、出会うことはかなわずとも、お前を嗅ぐことはできるのだ。」

◆スパイスとハーブの違いは

1990年代は、スパイスとハーブは同一に表現されていた。Herbsとは、両方含めての言い方だった。
ハーブにスパイスを含める人もいるが、木になるスパイスは、普通ハーブの範疇には入れない。ウエブスターの辞書によると、スパイスとは、ペッパー、シナモン、ナツメグ、クローブ等の種子、木の実や樹皮。スパイスは、人が栽培するのは困難、自家栽培し難いもの。
ハーブとは、温帯の幾分柔らかい土壌で育つもので、一年草~多年草で薬効を目的とする。人間の生活に役立ち、人が栽培しやすい植物。
スパイスを香辛料として言う時は、ハーブも含む。

◆スパイスの働き

  1. 抗菌と防腐作用
    精油にした場合、特に効果が強くなる。エジプトのミイラ作りに使われたいた。ノルウェーなど北欧の遠洋漁業においては、オールスパイスを持参し魚に詰めて利用した。クローブ、シナモン、マスタードは、病原菌(結核菌)に効くと考えられていた。
  2. 酸化防止
    肉や魚の品質保持のため利用される。
  3. 消化酵素の働きを強める
    消化促進効果は料理に生かされている。
  4. 矯臭作用
    肉の腐敗臭を消す。内陸部では生活必需品だった。
  5. 賦香(ふこう)作用
    香りづけ作用。この作用は、ポプリの香づくりに役立つ。オールスパイス、アニス、クローブ、カルダモン、シナモン、コリアンダー、ナツメグ、メース等。3種類以上混ぜ合わせると賦香効果が上がる。カレー粉の発生につながったかも。
  6. 辛味作用
    ブラックペッパー、ホワイトペッパー、チリ、ジンジャー、マスタード等は、メリハリがついて食欲を増す。
  7. 着色作用
    ターメリック    黄色   カレー
    マスタード    黄色   フレンチマスタード
    パプリカ     赤橙色  ハンガリアンシチュー
    サフラン     黄金色  パエリア
    フェヌグリーク  黄色   回教徒の豆スープ(マメ科)

    ◆スパイスリスト

    〔アニスシード〕  セリ科
    【学名】Pimpinella Anisum
    尖った卵型。芳香がスターアニスに似ている。
    [オールスパイス]  フトモモ科
    【学名】Pimenta dioicalis
    【英名】Allspice
    【別名】Piment、ピメント、三香子、百味胡椒
    【特徴】
    シナモン、クローブ、ナッツメグの三つの香味を兼ね備えているのが名前の由来。
    辛みはほとんどない。開拓時代のアメリカでは必需品だった。ジャマイカ産が最高級品。甘みと苦味を兼ね備えているので、甘辛どちらの料理にも役立つ。殺菌、強壮、神経痛
    常緑樹で、高さは7~12mぐらい。葉にも強い芳香がある。夏期に小さな白い花が咲き、開花してから3~4ヶ月後に未熟果を採集し、これを天日乾燥したも のがオールスパイスである。アメリカ以外では、普通ピメントとして知られる。オールスパイスという名はシナモン、クローブ、ナッツメグの三つの香味を兼ね 備えているところに由来する。ブラックペッパーをやや大型にしたような形で、若干の刺激感があるが、辛味はほとんどない。
    [カルダモ  ショウガ科
    【英名】Cardamon
    【学名】Elettaria cardamomum
    【別名】ショウズク
    【特徴】
    *マラバル・カルダモン(Elettaria属)
    最も評価が高い。インド南部マラバル海岸(胡椒海岸)近くの山林に野性する。
    *セイロン・カルダモン(Elettaria major)
    マラバルよりは評価が劣る。セイロン南部の森に野性する。
    *インドシナ・カルダモン(Amomum kravanh 別名丸カルダモン)
    タイ南西部の湾岸地方の山中に、カルダモン山脈と呼ばれる場所がある。
    【その他】
    ショウガ科の多年草で草丈は2~3mにも達する。草実は直径約1.5cmの卵形あるいは長楕円形をしており、芯には大きさ形のまちまちな黒い角のある種子 が、12~20個入っており、これがスパイスとなる。成分は少量の結晶性サポニン、その他の色素、植物ステロールなどである。
    漢方薬としては、緩和性解毒、利尿薬として水腫、脚気、下痢、でき物に用いる。
    カルダモンコーヒー(Ghawaガーワ)は、アラブの歓迎のシンボル。カレーの原料。グリーンカルダモンが一番良質で、かすかにレモンの風味がする。サフラン、バニラの次に高価なスパイス。防腐、健胃薬、駆風剤(腸内ガス)。
    〔クローブ〕  【学名】Eugenia caryophyllata(またはSyzygium aromaticum)
    【英名】Clove
    【別名】チョウジ
    【特徴】
    フトモモ科の常緑喬木で、高さは10~15mになる。100年ほど成長し、花は雄雌、同花で年2回咲く。若い蕾は緑色、開花後は鮮やかなピンク色で雄しべ が落ちると、深い赤褐色に変わる。クローブの葉も芳香を持つ。花蕾が釘のような形をしているので、中国では釘を意味する「丁香」「丁字」と表す。主成分は Eugenol(オイゲノール)である。数多くのスパイスのなかで、花の蕾はクローブのみ。語源はフランス語の 「Clou」に由来する。刺激的だが爽やかなバニラ風香味が特徴で、甘辛どちらの料理にも使われる。興奮作用が極めて強い。非常に匂いが染みつきやすいので注意がいる。他のスパイスと分けて保存すること。
    〔キャラウェイ〕  セリ科
    【学名】Carum carvi
    【英名】Caraway
    【原産地】ヨーロッパ、小アジア
    【特徴】
    甘く鋭い香りは石器時代から利用されていた。種子には消化促進作用があるので、食前に噛むとよい。ローマ人は口臭を消すために食後にも食べていた。「愛する人を失わないように守る」「人を思い通りにする」などの伝説があるハーブ。パンや菓子の風味のイメージが強いが、媚薬でもある。
    〔コリアンダー〕  セリ科
    【学名】
    【原産地】シリア
    【特徴】
    1~2年草(一年以上経て開花し、2年の内に枯れる)。カレー料理に欠かせぬ香辛料。香りの主成分はリナロールで、保存期間が長いほど香りは強くなる。丈は30cmぐらいで葉は深い切れ込みがある。6月頃に白い花が咲く。
    [ペッパー]  コショウ科
    【学名】
    【特徴】
    爽やかな香りと辛みあり。グリーンペッパー、未熟な実は本来緑色。
    ホワイト(水につけて外皮をむく)、ブラック(発酵)、ピンクペッパーも収穫時期は違うが同品種。
    コショウ科のピンクペッパーは、瓶入りで保存しても茶色く変色し、非常に辛い。国内で入手は困難。
    中世ヨーロッパでは地代や持参金、税金に。
    利尿、発汗、健胃、下痢、腹痛に。
    原産地は南インド(マラバル海岸の熱帯雨林)多年性の蔓性植物で白い花が咲き、実はぶどう状になる。収穫まで7~8年かかる。
    〔ピンクペッパー〕  バラ科
    【学名】
    【別名】おうしゅうななかまどの実。
    【その他】
    ポワブル・ロゼと呼ばれるこのスパイスは、コショウ科のピンクペッパーと混同されやすい。辛味もソフトで、色合いも美しい。料理のアクセントに利用される。
    〔サフラン〕  アヤメ科
    【学名】Crocus Sativus L.
    【別名】薬用クロッカス。
    【特徴】
    サフラン1gには、150個以上のめしべが必要。
    〔サンショウ〕  ミカン科 落葉低木
    【学名】
    【原産地】日本、朝鮮半島、中国
    【特徴】
    山地に自生し高さ2~4mに。対生するトゲがある。実のなる雌株が「実ざんしょう」で、実のならない雄株が「葉ざんしょう」。
    4~5月、枝先に黄緑色の小さな花をつける。葉を手のひらで叩いて香りを高めてから使う。果実は球形で赤褐色(九月頃)。光沢のある黒い種や若葉は香辛 料。直径4cmぐらいの幹は硬質なので、すりこぎ棒に。春は木の芽、夏は実山椒、秋は粉山椒として、四季折々の料理に香りと辛みを添える。辛みの元のサン ショールが、脳を刺激し内蔵を活発にして、胃腸の働きを助ける。
    [シナモン]  【学名】Cinnamomum zeylanicum
    【英名】Cinnamon
    【別名】桂皮(けいひ)、ニッキ
    【属科】 クスノキ科
    【特徴】
    クスノキ科の常緑喬木。下記のような品種が知られている。
    1. Cinnamonum zeylanicum Nees主としてスリランカを中心とした地域に産するセイロン桂皮ザラザラした黄褐色、精油含量1~2%
    2. C.cassia Blume中国から東インドに産する桂皮。暗褐色、精油含量1~2%
    3. C.loureirii Nees九州や沖縄など、日本南部から中国南部、ラオス、カンボジア、ベトナムなど東南アジアにかけて産する肉桂、淡灰褐色~暗赤褐色、精油含量2.5~4%
    4. C.burmanii Blumeインドネシア、スマトラに産する桂皮、淡黄褐色、精油含量 0.5~1.8%
    【その他】
    アメリカと日本は、カッシャと混同している。シナモンの方がきめ細かく香りも繊細で高価。スパイスのうちでも最古のものの一つ。
    エジプトではミイラ造りや呪術に用い、中世ヨーロッパでは媚薬。シナモンとカッシャを混同している国がほとんどだが、イギリスでは法律でシナモンだけが肉 桂として認められ販売されている。漢方薬では、屠蘇散、八味地黄丸、葛根湯などに使われている。ほのかな甘みあり、コーラの成分にも使用されている。効能 は、健胃、発汗、解熱、鎮痛。
    〔スターアニス〕  モクレン科の常緑低木の果実。
    【学名】
    【別名】八角、大茴香
    【原産地】中国南部
    【特徴】
    高さ8mほどに成長し、小さな黄色い花が咲き、実は熟すとともに星形になる。樹齢6年後から約100年間ほど実をつける。アニスに似た香りが名前の由来。中華の香辛料として有名。そのまま噛むと口臭消しに。仙痛、リューマチ、せき止めに効能。
    〔ターメリック〕  ショウガ科の根茎
    【学名】
    【別名】ウコン
    【原産地】インド。
    【特徴】
    高温多湿を好む多年草で高さは約1m。
    根茎を茹でるか、又は蒸してから乾燥する。生の色はオレンジ色。オレンジとジンジャーをミックスしたような香り。味はやや苦味がある。カレーの色づけに不可欠。ウコン染めの染料。強壮剤、肝臓、皮膚疾患に効能。
    [チリペパー]  トウガラシ属
    【学名】
    【別名】レッドペパー、カイエンペパー
    【特徴】
    一般的には、大きく丸い果肉の厚いものはマイルド、小さく皮が薄くとがったものは辛い。刺激が強いので、敏感な皮膚に触れないよう注意。タバスコ、らー油でお馴染み。
    〔ディルシード〕  セリ科
    【学名】Anethum graveolens
    【英名】Dillseed
    【特徴】
    形状は、平らな楕円形。爽やかな香。
    〔ナツメグ、メース〕  【学名】Myristica fragrance Houttuyn
    【英名】Nutmug & Mace
    【別名】肉ずく
    【特徴】
    ニクズク科の常緑喬木。高さ8~16mになる。雌雄異株の植物で、雌株の木だけに実る。完熟したアプリコットに似た実を半分に割り、中の鮮やかな深紅色の 疎網状の仮種皮(メース)に包まれた黒褐色の殻を取り出し、十分に乾燥してから木づちで割って出した褐色の種子である。
    その後5~9年かかりやっと結実する。20年も経つと一本の木から、500~2000個の実をつける。ナッツメグとメースは似通った香味を持つが、ナッツメグの方がよりスパイシーで甘い刺激的な香りと、まろやかなほろ苦味がある。
    ナッツメグオイルは、商業上East Indian typeと West Indian typeに分かれる。前者は比較的重厚で、樟脳様、鋭い薬味香 が強いが、後者は軽快で甘口の薬味香を持つ。一般にEast Indian typeの方が品位は優れているといわれる。
    〔マスタード〕  あぶらな科
    【学名】Brassica species
    【特徴】
    ブラック、ブラウン、ホワイトの3種類がある。
    バニラビーンズ  ラン科 蔓性植物の実
    【学名】
    【原産地】中央アメリカ原産
    【特徴】
    メキシコ産の天然バニラエッセンスは良質。黄緑色の花後になる未熟なさやを摘み、何度かの工程と発酵で仕上げる。この過程が複雑なため天然バニラは高価になってしまう。きつい合成バニラとは違って上品な甘さが特徴。
    砂糖に混ぜておくと何年も自然に香りが移る。洗って乾せば何度も使える。メキシコのアステカ民族も香料として利用していた。スペイン人がスペイン語の「さや」という意味の「バイナ」と呼んだのが語源。
    世界の消費量の90%は合成品。ポプリの保留剤。