■日本の香りについて
四季の変化によって、日本独特の香りが生まれた。日本情緒の一つでもある。草花に関する最古の記録としては、古事記や風土記がある。仏教伝来が、香り文化に最も影響を与えた。苦難の末に来日(754年)した鑑人和上が持参した目録に、現代の線香やポプリの材料(乳香など)も含まれていた。
平安時代はのんびりした時代で、蜜、あまずら、梅の果肉などをまぜて練り合わせた薫物(たきもの)がもてはやされた。源氏物語の梅枝(うめがえ)の章が有名。枕草子には、車にふみにじられる蓬、春の蓬が秋にも香りを残す風情、一人で香を楽しむシーンなどがある。
鎌倉、室町時代には、香道の流派が確立した。お香は、世界中で神への捧げ物として扱われ、魔除けの意味あいもあった。日光山輪王寺などの御守りには、香木が入っている。安土、桃山時代には武士階級、江戸時代には町人たちにも香料(匂い袋)が普及した。
明治時代に、香水(ヘリオトロープの香)が輸入されはじめて、現代の香り文化へとつながった。現代社会は密閉した部屋が多いので、お香やハーブなどの自然 の香りを、意識して取り入れる必要がある。人工的、機械的な空間からくる圧迫感を、少しでも和らげるものとして、上手に利用したい。
匂い袋
■匂い袋について
「匂い袋」には、浮世袋、誰が袖、花袋、袖衣、花世界、丘部卿などの別名がある。
ルーツは正倉院に残る衣被香(えびこう)で、衣類や寝具、経典、文書などに香りを焚きこめ、防虫効果も兼ねていた。小袋に詰めて、使いやすくしたものが香袋(匂い袋)となった。
中身は、白檀、クローブ、パチューリ、龍脳、じゃ香などの媚薬が多い。
■練香(ネリコウ)=薫物(タキモノ)
香木をはじめ種々の物質を混ぜ合わせて調整した芳香物質のこと。17世紀に日本で全盛期を迎える。成分は麝香、沈香、白檀、薫陸、貝香、甘松、山奈、かっ香、青木香、占唐、零陸香、桂心、竜脳、蘇合、蜜(蜂蜜、糖蜜、石蜜、甘葛)など。
香炉で部屋に焚き、臥籠、球香炉、袖香炉で衣服に焚き染めて使った。通った後に、よい匂いが漂うよう衣服に香を焚き染めておくことを、「追風用意」と言う。
- 臥 籠 →「ふせご」は、香炉の上に大きな籠を臥せ、その上に衣服をかけて使う。
- 球香炉 →「たまこうろ」は、龕燈返し(がんどうがえし) になった銀や銅の球状の薫炉で、正倉院に伝わっている。水平を保つ構造で、大きさはサッカーボールくらい。
- 袖香炉→「そでこうろ」は、野球ボールくらいの大きさで、袖に直接ひそめて使う。
- 香 枕 →長髪に香りを付けるための道具。香炉を入れて普通の木枕の外側に置く。
「匂い」は、「赤く色が映えてみえる」が語源にあるので、視覚的な美的表現に属す。
「かおり」は、「香居り」「気折り」が語源で、煙がほのかに漂う意があり臭覚的。
■梅ヶ香の材料
- 沈香
朽ちた様々な木が熱帯土壌に埋もれて変化し、木質に沈着して香木になると言われるが、 正確な植物名、樹脂変化のメカニズムなど未解明。今日でも栽培は不可能。 - 丁字
古代中国では、形状から鶏舌香と呼ばれ口臭消しに。防腐効果がある。 - 麝香
麝香鹿の雄の香嚢で暗褐色の粒状。薫物の重要原料。ワシントン条約保護品目なので、 マスクオイルで代用も。 - 貝香
巻き貝の貝殻を砕いたもの。香りはよくないが保留材。貝甲、甲香とも呼ぶ。 - 白檀
古代インドでは、焚香料として宗教儀式に使用。寄生植物で甘味のある芳香。 - 薫陸(くんろく)
ウルシ科 黄褐色や暗褐色で、石のように凝固した樹脂。乳香と間違いやすい。 - 甘松(かんしょう)
オミナエシ科 乾燥した根や茎で、クマリン誘導体を含む。根部に芳香成分が多い。 - 梅粉末
バラ科 香気成分の研究は極めて少ないが、近年、冷凍花弁から香り成分の抽出に成功。 粉末化したものは、水戸観光物産店で販売。
スパイス、漢方薬、お香専門店で揃う。
山田松香木店 京都市上京区室町通下立売上ル ℡:075-441-4694
香雅堂 東京都港区麻布十番3-3-5 ℡:03-3452-0351
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